東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)123号 判決
事実及び理由
一 請求原因一ないし三の各事実、すなわち被告が実用新案権を有する本件考案についてなされた特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨、第一ないし第四引用例に審決認定のとおりの各記載があること及び審決の理由の要点はいずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由の有無につき判断する。
(一) 第一ないし第四引用例には強制循環式活餌倉にビルジ排水装置が組込まれたものの記載がないこと、鋼製漁船の魚倉にはビルジ排水装置を設置することが法令上義務付けられていることは当事者間に争いがなく、また、魚倉を強制循環式活餌倉として用いる場合もあることは弁論の全趣旨によりこれを認めることができるから、魚倉兼用の活餌倉にビルジ排水装置を設置することは、少なくとも鋼製漁船の場合当然の義務というべきである。
しかしながら、成立に争いのない甲第三号証(第三引用例)、第四号証(第四引用例)によれば、ビルジ排水装置は、本来倉内に溜つた海水や汚水の排出を目的とし、ビルジ吸引管の上方端にポンプを連結して吸引排水するものであつて、鋼製漁船構造基準上、ビルジ吸引管の上方端と倉口部との高さの位置関係については何ら限定はないが、ビルジ吸引管の下方端にはゴミ除箱を備えるべきこととされ、その吸水孔巣の各孔の径は一〇ミリメートル以下としなければならないとされているから、ごく微細なものを除き、通常の死魚その他の固形物を排出することはできず、もともと死魚等の取出し用として予定されていない装置であることが認められる。一方、成立に争いのない甲第六号証(本件考案の実用新案公報)によれば、本件考案の装置は、死餌、埃等の取出しを主目的とし、ポンプによる吸引をすることなく、溢流口と排水管の上方端との間の水頭差(水圧差)により生ずる水流を利用して、底壁や溜りに集められた死餌等を排水管の上方端から海水とともに自動的に排出するものであり、排水管の下方端にゴミ除箱は設置しないことが認められる。
したがつて、ビルジ排水装置と本件考案の装置とは、右認定のとおり、目的、構成及び作用効果において差異があり、本件考案が各引用例を寄せ集めたものと同一であるといえないことは明らかである。
(二) 次に、原告は、水頭差により生ずる水流を利用して固形物を排出させることは周知の事項であり、ゴミ除箱の設置の有無は本質的な構成ではなく、これを取外すことは容易になしうることであるから、本件考案は、各引用例により公知の活餌倉とビルジ排水装置とを合わせることによつてきわめて容易に考案できたものである旨主張するところ、なるほど水頭差(水圧差)により水流の生ずることは自然法則上明白なことであり、一般にこの水流を利用して固形物を排出させることが周知であることは成立に争いのない甲第八、第九号証によつても認められる。
しかしながら、右甲第八、第九号証(いずれも特許公報)に記載されている発明は自然法則を利用して比重の異なつた固体を分離する方法や汚泥を分離排出して浄水をうる方法を具体的な装置(構成)として示しているものであり、本件考案も、右自然法則や周知事項を魚船の活餌倉に適用し、倉内の海水の更新と死餌や埃の倉外への取出しとを自動的かつ同時に行える具体的な構成を要旨としているのであつて、いずれもその具体的構成に発明力ないし考案力を認められたものである。そして、前記(一)において認定したとおり、引用例に示されたビルジ排水装置は、本件考案の装置と目的、構成及び作用効果において著しく相違していることは明らかである。なお、原告は、ビルジ排水装置においてビルジ吸引管の下方端にゴミ除箱を設置することが本質的な構成ではないと主張するが、前掲甲第三号証からも明らかなように、ビルジ排水装置においては右ゴミ除箱の設置が構造基準により必須のものとされており、これを取外して使用することは予定されていないものであるから、原告のこの主張は理由がない。
してみれば、各引用例から魚倉兼用の活餌倉にビルジ排水装置を組込むことが読みとれるとしても、引用例が、吸引管の下方端にはゴミ除箱を設けるとともに、ポンプの吸引力により排水を行なうビルジ排水装置を用いることになるのと異なり、本件考案は、前認定の構成をもつて、延長艙口部上方部分の溢流口と排水管の上方端との間の水頭差により、活餌倉の底壁に設けた溜りから死餌や埃を魚倉外へ取出すと同時に、活餌に必要な海水の更新をも自動的に行うという特段の作用効果を収めるものであり、これに、このような本件考案がその出願前に実施されたことのうかがえない事跡を考え合わせると、本件考案は、当業者が各引用例からきわめて容易に考案できたものとは認められない。
(三) 以上の次第であるから、本件考案の新規性及び進歩性に関する審決の認定及び判断に誤りはなく、その結論は正当である。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
(1) 魚船の活餌倉10の上部壁11に、断面を縮少した延長艙口部15を設け、該延長艙口部上方部分に溢流口17を形成し、上記活餌倉の底壁12に溜り19を形成し、(2) 該溜りに対して、排水管20を配列しその下方端21を右溜りに近接させ、
(3) その上方端22を上記溢流口17より低く位置させ、
(4) 右活餌倉を海水で充満させ、且つ倉内の海水を更新さすポンプを倉外に配置し、
(5) 上記の溢流口と排水管の上方端間の水頭差により、上記溜り及びその近くの底壁上に集められた死餌並びに埃を倉外に取出すように構成した装置